あなたのマドレーヌは何ですか?
わたしの好きな番組のひとつに
『グレーテルのかまど』がある。
どちらかというとテレビは見ない方だ。他に好きな番組と言えば、雨トーク、マツコの知らない世界を挙げる。
でも毎回決まって見るわけではないから、毎週録画して母と一緒に見ているこの番組は、わたしにとってかなりお気に入りかもしれない。
(母はこの番組を再生した途端、催眠術にでもかけられたかのように睡魔に襲われ、毎度最後まで見ることができない。再生する前に「どーせ寝るのに見る意味ある?笑」と尋ねるが、本人の意思で寝ているわけではないので毎回同じパターンを繰り返している。笑)
この番組は各回スイーツを一品取り上げ、そのスイーツにゆかりのある人物の思い入れやエピソードを紹介していく。
先日わたしはマドレーヌの回を見た。もちろん作っているシーンを見るのも面白いが、その時は自分の知らなかったエピソードに触れていろいろな思いが巡った。
「あなたのマドレーヌは何ですか?」
このフレーズはフランス人にとって思い出に結び付くらしい。
それはプルーストという作家が書いた「失われた時を求めて」という物語に由来する。その作品のなかで、40歳の主人公がマドレーヌを口にし、その懐かしい香りに誘われて幼少期の頃を思い出す、、という場面がとても有名だそうだ。
そこから『あなたのプルーストのマドレーヌは何か?』と聞けば、
『あなたの懐かしい記憶を思い起こさせるものは何か?』という意味になったそうだ。
なんて素敵な言い回し!!
番組で取材を受けていた街中のフランス人たちは思い思いに
「オリーブの木が風に揺られる音よ!」とか
「故郷の潮風のにおい、、」
と、笑顔で答えていた。
わたしにとってのマドレーヌはなんだろう?
わたしはさほど時間をかけずにすぐに見つけた。
幼い頃、母とよくお菓子作りをしていた記憶がある。
定番だった、というか、わたしの記憶にしっかりと残っているのが、苺のババロアと、、レアチーズケーキだった。
特にレアチーズケーキは作っているときの香りがとても印象的だった。
クリームチーズを電子レンジにかけて、柔らかくするときの、酸味のあるにおい、、、そこに入れるレモンをスクイザーで絞るときのフレッシュなにおい、、
今でもクリームチーズの香りを嗅ぐとその思い出が瞬時に蘇る。
わたしの中ではクリームチーズはお酒のおつまみでも、そのまま食べるものでもなく、
クリームチーズ=チーズケーキの材料なのだ。
4歳、5歳くらいだろうか?
小さいわたしはキッチンを見上げるようにして立っている。もちろん、電子レンジも作業台も届かない。
今では追い抜かしてしまった母の後ろ姿も、この記憶の中では大きい。
主に母が作っているのを見ていた。たまにやりたくなって木ベラで混ぜたりしたけど、力がないからすぐに母とバトンタッチ。笑
わたしがお菓子作りを好きになったのも、多分ここからだと思う。
また、「グレーテルのかまど」の別の回では苺ババロアを特集していたが、絵本作家のいわさきちひろさんの息子さんが話しているのが印象的だった。
幼い頃、新宿のお店に母と二人で食べに行ったこと。。その時の周りの音、母とのお決まりのやり取り、、
「大きい方をどうぞ」って必ず言ってくれるんですよ、家でもよく一緒に作りましたねぇ、、、
ニコニコしながら語るその人はとっっても幸せそうだった。
番組を見ていたわたしも胸がいっぱいになって涙が出そうになった。
その時は母も珍しく起きていて、
「この人、子供の頃とっても楽しかったんだろうね、、お母さんのこと、大好きだったんだろうね、、」
と、二人でジーンとしながら話した。
「わたしたちもよく作ったよね、ババロアとか、チーズケーキとか、、懐かしいね、、」
過ぎてしまった日の、懐かしくどうしようもないくらい愛おしい日々。
それを母とわたしで共有している。
これを書いている今もジーンとしてくるくらい、この思い出はわたしを作る大きな部分なのかもしれない。
香りというのは記憶と深く結び付いており、五感の中では一番記憶を呼び覚ましやすいという。
なんでも、脳の海馬という記憶を司る部分が、、、
と、そんな話はどうでもよくて、、笑
「あなたのマドレーヌは何ですか?」
心をときめきでいっぱいにしてくれる思い出の中に、
連れて行ってくれる『そのアイテム』は何かしら、、?
人は好きなものについて思いを馳せるとき、間違いなく幸福の中にいるよ。
いつでも手に入れられる「幸せ」を
自分の中にもひとつ、見つけてほしいな。
つづく。